「第2回ダイバー自身の安全対策セミナー」開催レポート

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去る5月18日(土)に東京・恵比寿にて、Cカード協議会主催の「第2回ダイバー自身の安全対策セミナー」が開催されました。このセミナーは、昨年10月に開催された第1回に引き続き、「ダイバーの安全はダイバー自身が守る」という大原則を改めて見直すと共に、現在起こっている問題点を検証し、今後の対策につなげていこうというもの。午前、午後の2回でおよそ100名が参加し、活発な意見交換も交わされました。当日、参加できなかった方のために、セミナーの模様を紹介します。

■日にち:2013年5月18日(土)
■会場:東京都渋谷区恵比寿南1-1-1  ヒューマックス恵比寿ビル7F 701教室
■主催:Cカード協議会(実行委員:PADIジャパン)
■協力:海上保安庁 警備救難部救難課マリンレジャー安全推進室

1.2012年事故報告

ph3海上保安庁・警備救難部 救難課/武山晃浩

まずは昨年1年間のダイビング事故発生状況を、海上保安庁発表の資料を元に、救難課の武山氏が報告しました。

ポイントは以下のとおり。
・2012年の事故者数は58人で、過去10年の中で最多。
・事故者のうち、40歳以上の中高年が約7割を占める。死者・行方不明者に至っては、実に97%が40歳以上。
・月別で見ると、7、8月の事故者数が突出している
・経験年数3年以上が事故者のおよそ半分を占めており、不注意や知識・技能不足など自己の過失によるものが半分以上を占める。
・事故者数、死者・行方不明者ともに男性の占める割合が大きい。

資料リンク
平成24年 レジャーダイビング事故発生状況

 

また、昨年の事故の中から3件の事例を挙げ、どんな点に問題があったのかを考察。初歩的なスキルができずにパニックになって事故となる事例の多いことが指摘され、「自分の命は自分で守る」という感覚をしっかりと持つことの大切さなどが語られました。海上保安庁の潜水士のトレーニング状況や潜るうえでの心構え、「バディ」についての考え方なども紹介され、参加者からの関心も高かったようです。

2.世界の事故傾向

phDAN JAPAN/野澤徹浩

DAN JAPANからは、これまでのデータをもとに、日本とアメリカの事故傾向が比較されました。
■ダイバー数とダイビング事故のまとめ
■日本の死亡者数の推移
■アメリカのダイバー数と死亡者数の推移
■日本の事故、死亡・行方不明の男女による違い
■アメリカの死亡者の男女による違い
■ダイビングにおける死亡の10万人率
■日本とアメリカでの事故原因の違いを探る
■バディの位置に見る問題点

日本とアメリカの事故傾向の違いとしては、
・アメリカは死亡者の数は出ているが、事故者の数は出ていない。毎年90人くらいが死亡している。圧倒的に男性が多い。
・日本の事故原因で多いのは「技量の未熟」「体調の不注意」「監視不十分」。
・日本での死亡・不明原因で多いのは「体調の不注意」「器具の不備」「技量の未熟」「監視不十分」。
・アメリカの「死亡事故の引き金」は、「ガス切れ」(41%)、「拘束」(21%)、「器材のトラブル」(15%)の順。
・日本の事故原因で目立つのは技量の未熟などによる「パニック」で、190件の事故事例中65件でパニックが疑われる。また、病気が疑われるものも増えてきている(特に中高年)。

資料リンク
潜水事故の傾向と対策について

 

3.過去の事故事例検証

ph4Cカード協議会(PADIジャパン・トレーニング部) /村上史朗

続いて、過去のダイビング事故の中から4つの事例について、事故の状況や海のコンディション、グループ構成などを詳しく挙げ、「なぜ事故が起こってしまったのか」、「どうして事故を防ぐことができなかったのか」をディスカッション。

残念ながら時間の都合上、すべての事例について話し合うことはできませんでしたが、参加者の皆さんからさまざまな意見が挙がりました。

皆さんも以下の資料(PDF)を見て、考えてみてください。

資料リンク
過去の事故事例検証


参加者より

事故事例Ⅰについて

・水面ではレギュレーターやスノーケルをくわえておくべき
・水底集合であっても、水面で監視するスタッフがいるべき(人員配置の問題)
・水面集合で潜降ラインを使ったほうがよかった
・事故者のバディは何をしていたのか。バディ同士で行動していないのが問題
   ⇒本来の「バディ・システム」が機能していない。ガイドについていくスタイルになってしまっている
・経験の浅い人同士でバディを組ませるのはいかがなものか  
   ⇒あえて組ませて、そこにスタッフが張り付くという方法もある
 (経験の浅い人同士でバディを組ませることによるスキルアップや、監視しやすくするために)
・事故者のスキルが未熟  
   ⇒認定したインストラクターの責任もあるのではないか
  (過去の判例において、Cカード取得時のインストラクターの責任を認めた事例もある)
・経験の浅いダイバーがカメラを持つのはいかがなものか  
   ⇒カメラを持つことのリスクを伝えるべきではないか
・自分の苦手なことを正直に言える環境(雰囲気)も大切
・Cカードを持つべきレベルに達していないダイバーが誕生しているのが問題


事故事例Ⅱについて

・コンディションの判断ミス
・流れの上手からエントリーしているのか
・潜るには流れが速すぎるのではないか。作業潜水ではレギュレーションで、ヘルメット潜水は0.8ノット以下、スクーバは0.5ノット以下と定められている
・引率するゲストの人数が多すぎる

事故事例Ⅲについて

・水面ではBCに空気を入れて浮力を確保すべき
・オーバーウエイトだったのではないか
・事故者が溺れているとき、バディは何をしていたのか
・耳抜きができずにダイビング中止という事態に動揺があったのではないか
  ⇒それが事故者のパニックにつながった可能性がある
・インストラクターが水面まで事故者に付き添うべきだった(管理面での問題)

事故事例Ⅳについて

・暗くて狭いクレバスに初心者が入っていくのはストレスになる
   ⇒ブリーフィングの重要性

全体に関して

・同じオープン・ウォーター・ダイバーのCカードを持っていても、教わったインストラクターによって、その価値・内容が変わってしまっているのではないか。

 

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4.バディシステムの再検証

Cカード協議会(PADIジャパン・トレーニング部) /村上史朗

ここまで話し合った内容を踏まえて、改めて「バディシステム」の持つ重要性について確認しました。

事故事例などから導き出されるのは「バディシステムが機能していないのではないか」ということ(名ばかりのバディという実態)。安全面のバックアップとしてバディは非常に重要な存在であり、ガイド付きのダイビングであっても、バディシステムをしっかりと機能させることの大切さが語られました。

バディとして心がけたいこと。
自分が感じたこと、思ったことは何でも相手に伝えること。
相手のストレス、トラブルが素早く察知できるよう、常にバディを観察すること。
バディはお互いの命を守る大切な存在なのです。

 

また、最後に救難課の武山氏から、
・他のレジャーと異なり、特殊な環境下で行なわれるため、事故が起きたときの死亡率が高い
  ⇒自分の身は自分で守るという感覚を持つこと
・Cカードはある一定レベルの知識・スキルを身につけている証
  ⇒自信がなければ正直に言うべき
・インストラクターはダイビングの持つ危険性をきちんと伝えるべき
   ⇒「楽しい」だけではない
・カメラも含め、いきなり新しいスタイルを行なうのではなく、まずはインストラクターの監督下でトレーニングしたうえで始めるべき
・インストラクターは、ゲストに何かあったときに何人までケアできるかを考えて、引率する人数を考慮すべき
というコメントがありました。

 




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